YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.86 心が折れてしまったときはいさぎよく何もしなくていい

前回はメンタルの大切さについてお話ししました。私は生徒さんからよく「先生は落ち込むことなんてないでしょ!」と言われます。そこで、今回は私の心がポッキリ折れてしまったときの立ち直り方についてお話ししたいと思います。

人は頑張りすぎて、限界を超え、心がポッキリと折れて、何も考えられないくらい落ち込んでしまうことがあります。そんなとき、私はあえて何もしないようにしています。少しでも面倒に感じることや、「わざわざ」するようなこと、プレッシャーがかかるようなことは、絶対にしません。むしろ、頑張らずにそのままでいるほうがいいのです。感情の浮き沈みが激しいときに、むやみやたらに動いても、気持ちに余裕がないので、いい結果を生み出せません。よくない感情は、体や仕事、プライベートなど、すべてをだめにしてしまうのです。だから、「これをしなくちゃ」から「これがしたい!」という気持ちになるまでは動きません。

意外に思われるかもしれませんが、私は元々、自宅にいることが大好きな“ひきこもり”です(笑)。食事も外食より、自分で作って食べるほうが好き。日頃の一番の気晴らしは、自宅で手間がかかる料理や彩りよい食事を作ったり、掃除や断捨離をすることです。

そんな私がとことん落ち込んだときは、外にまったく出ないし、本当に何もしません。許す限り、顔も洗わず、化粧もせず、ホットタオルだけで過ごすことも。3日も窓さえも開ける気にならないほど、気力がなければ、当然のことながらリネン類も取り替えず、髪が落ちていても気にならなくなってしまうこともあります。動きたくなければ何もせず、「○○しなきゃ」という考えをはずしてしまうのです。後から気づいたことですが、私は寂しいときは温かいものが食べたくなります。サラダなど、冷たいものが食べられるときは、元気なとき。熱々のものが食べたくなったら、寂しかったり、自分をいたわりたいとき。意外と身の周りのことに自分の心境が表れるものですね。

心ゆくまで思うがままに過ごす第一段階を経てみると、だんだんと日常に復帰したことを考えるようになります。「女だから、肌ぐらいは気をつけなきゃ」と考えて、部屋の加湿に気をつけたり、体にいいものを食べ始めるのです。

こうなってくると、少し元気になった、第二段階です。私は普段から旬の食材を料理したり、外食でおいしかったものをテイクアウトして、2つ食べても問題ないくらいの量に小分けにして、密封容器に入れ、冷凍庫にストックしています。元気なときや時間があるときに体に入れたい食べ物を準備しておくと、落ち込んだときや時間がないときに、とても重宝するのです。冷凍庫にストックしておいたものを常温に戻して電子レンジで温めるだけで、体にいいものが手軽に摂れます。そうして体に入れるべきものを食べていると、体は正直なので、しっかりと応えてくれます。体の中から、肌も気分もだんだんと上向きに変わってくるのです。

あるときは、美を意識でき、動き出せる気力が出てくると、お風呂からスタートするのがベストでした。パックやマッサージでお風呂に長く浸かるようになったら、その時間も楽しもうと本を持ち込むようになったのです。私が落ち込んだときの現実逃避と気分転換にもってこいだった本が『ハリー・ポッター』です。もちろん、現実の悩みと向き合うことも大切なのですが、落ち込んで視野が狭くなっているときは非現実も大事。同じ本を何度もくり返し読むことで、自分の感じ方や捉え方が変わっていくのがわかります。つまり、自分自身がその都度成長して、広い視野でものごとを見られるようになり、自分をがんじがらめにしていた、しがらみのようなものから解き放たれていくのです。私がハリーに教えてもらったことは、「自分は自分でいい」「みんなそれぞれに個性があっていい」「差別は要らない」など、さまざまなことでした。たった1文でもそのときどきの自分の状態や感覚によって、感じ方や捉え方は変わるものです。本であれば、なおさらそれがよくわかるというわけです。

さて、どうしようもなく、何もできなかったどん底のうつ状態から、だんだんと自分のできることが増え、視野が広がり、見たものや聞いたものなど、周りからのエネルギーが受け取れるようになりました。心も筋肉とまったく同じで、可動域はだんだんと広がっていくものです。こうなると、たとえ同じことをしても、気づきは違うので、いよいよ日常に復帰できる段階です。

まずはとことん自分の気持ちに従って、「○○しなくちゃ」という考えを捨ててみてもいいでしょう。思うままに過ごしてみてください。ドーンと落ち込むほど頑張ってしまったのだから、ときにはひきこもり期間があってもいいのです。すべてをリセットできるチャンスです。多忙な日常の中では、気がつけなかったことに気づける、いい機会になるはずです。