YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.38 照れくさい? でも大切な「ありがとう」

私の仕事はマンツーマンのウォーキングレッスンが中心ですが、企業の研修やセミナー、講演などもよくお手伝いさせていただいています。特に4月は新社会人のシーズンですから、社員教育など大勢の方々を相手にする場面が増えます。そんな中で壇上に上がってお話をしつつ、ふっと「ああ、ありがたいな」と思う瞬間がしばしばあります。

先生という立場ではありますが、実際のところ、私ひとりではセミナーや研修は成立しません。司会の方が喋りやすい環境を作ってくださったり、照明や音響の方がサポートして盛り上げてくださったり。そういった周囲のサポート力があるからこそセミナーや研修がスムーズに進むわけですし、私は喋ることに専念できる。こうやって頼れる方がいて信頼関係ができているというのは本当に幸せなことだと思います。そして、「ありがとう」という気持ちを表現していくと、ますます物事がうまく進むんです。

この不思議なスパイラルは、体にも当てはまります。一日ばりっと働いて帰宅したら、スーツを脱いで「今日は頑張ってくれてありがとう」と、体に声をかけるんです。そうすると、体をいたわりたくなるから面白い。「ヒールで一日歩いてくれてありがとう」と、自然に足をマッサージしたくなる。足だけではありません。「今日はお疲れさま」と一日踏まれていた靴もケアしたくなります(そして実際に、私は靴底をスポンジで洗って磨きます。こうやっていつもピカピカにメンテナンスしていると靴の傷みが少なくてすみますし、洋服のコーディネイトを考えるときに靴も室内に持ちこんでチェックできます)。

実は、私は39歳になった日から、毎日おひとりにお礼のお手紙を書いています。きっかけは「39=サンキュー、じゃない」と思ったという(笑)他愛もないことですが、お世話になっている方々にありがとうの気持ちを伝えなくちゃ、という気持ちになったんです。もちろん、きちんとついてきて意見を返してくれる生徒さん、言いにくいことを言ってくれる友人たちや、講演や研修をサポートしてくださるスタッフの皆さんのことを「本当にありがたいな」と、毎日強く感じます。けれど、先生という立場ですから普段は厳しいことを言う側ですし、そこに思いや感情を交えるべきではない、と考えていたんですね。それに「きっと私のことを理解してくれているし、感謝の気持ちも伝わっているはず」と勝手に思い込んでいました。でも、「改めて言葉にして伝えてみよう!」と、ふと思ったんです。ただ、面と向かってお伝えするのは照れくさい───そこで「自己満足でごめんなさい、でもお礼を言いたくて」と手紙を書いたんです。あれから数年、もうどれだけの方にサンキューレターが届いたかしら!

実際に言葉にして感謝をお伝えしてみると、すごく喜んでいただけたし、いいフィードバックをたくさんいただきました。照れくさいし「言わなくてもわかってもらえるだろう」と思っていたのですが、そんなことないんですね。ありがとうを伝えたことで始まるコミュニケーションや広がっていくご縁があり、ますますいい出会いが増えました。次は、あなたのところにお礼のお手紙が届くかもしれませんよ。

慣れ親しんでいるお相手に、あるいはいつも酷使している自分の体に伝える「ありがとう」。そんな一言から、何かを変えてみませんか?