YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.37 “悩み”を相談する、その前に。

企業研修を担当したり、取材を受けていると、皆さんからいろいろな質問を受けます。そんな中で、初めてお会いする方に必ずといっていいほど聞かれるものが2つあります。今回は、そんな「みんなの悩み」についてのお話です。

「よくある質問」のトップは「肩を回したら、肩こりってなくなりますか?」というもの(これは、私が肩回しストレッチなどの書籍を出版しているからだと思いますが)。もちろん肩回しは不調の解消に素晴らしい効果を発揮してくれます。でも、マッサージに行ったり、肩を回すことで肩こりが解消したとしても、放っておけばもとに戻ってしまいませんか? 私が皆さんに提案したいのは、もっと深いレベルでの身体のケア。だから、肩こりが気になるのだとしたら、まず「どうして肩こりになったんだろう?」と考えてほしいんです。不調や悩みと追いかけっこしても、きりがありませんよね。もっと根本に働きかけることで、「そもそも、肩がこらない」身体を目指してほしいんです。「お腹のお肉って、どうやったらなくなりますか?」という質問も同じこと。肩だけ、お腹だけを見ていたのでは、その悩みをなくすのは簡単ではありません。

どうして肩がこるのか、考えてみましょう。レッスンや研修を初めて受けた方の姿勢を正していくと、ほぼ全員が「こんなに頭が後ろなの!」と驚かれます。軽くあごをひき、後頭部をお尻の上にのせるようなイメージなのですが、慣れていない方がやると、まるでのけぞっているかのように後ろに感じられるんだそうです。ということは……そうです、それだけ普段の姿勢が前のめりになっているということ。だって、見るのも話をするのも食べるのも、首から上。それも“前”で行うことなんですから。こういった“前作業”が続くと当然、首や肩に大きな負担がかかります。頭の重さは身体の約1/10だと知っていますか? 女性でも4〜5キロはある頭が前に落ちているのを、肩や首が頑張って支えてくれている。だから筋肉が酷使されるし、ガチガチに凝るんです。前のめりな頭が落ちた姿勢の“添え木”である凝りを根っこから解消したいなら、そもそもの頭の位置と姿勢から治さなければ。頭の重みがストンと背骨にのるようになれば、マッサージなんていかなくても“肩が凝らない人”になれるんです。

ぽっこりお腹も同じこと。ぼよんとしたお肉がないと上半身が支えられない、そんな前傾姿勢が原因であることがほとんどです。頑張って腹筋したり無理なダイエットをする前に、「どうしてお腹が出てしまうんだろう?」と考えることが大切。そこにあるお腹は、案外、姿勢の悪いあなたを助けてくれているサポーターなのかもしれませんよ。

かくいう私もご多分に漏れず、昔は「このお腹をなんとかしたい!」と思うタイプでした。便秘になったら下剤を飲めばいいし、太ってしまったらせっせと走ってダイエット。「キャベツしか食べない」といった偏ったダイエットも“私、頑張ってる!”という満足感があるので数々トライしました。でも、そんな生活を続けていたら、身体が悲鳴を上げたんです。よかれと思って同じことを繰り返した結果、私の場合は10年間で2度、同じ病気になってしまいました。体調を崩し、ドクターから「また同じことが起きるよ」と言われて、はっと気づいたんです。近道と思ってやっていることは、本当の解決になっていないのだと。地味で遠回りに感じられる方法が、実は根本から解決してくれるのだと。

たとえば髪も、表面的にオイルをつけたり保湿をしても、ダメージが「治る」わけではないですよね。15年近く前に「髪じゃない。問題は頭皮だ!」と気づいてケア方法を変えてから、私は髪のクオリティがぐんとよくなりました。数年はかかりましたが、それ以来「髪が傷んでいるから切る」ということは皆無。高いシャンプーも特別なドライヤーも使わず、「頭皮を丁寧にマッサージする」という地味な方法で満足のゆく髪を手に入れています。髪だけではありません。姿勢も、肌も、スタイルも、「今がいちばんベスト」といえる状態になっています。そんな変化はすべて、「○○(お腹、肩こり、髪の傷み……etc)をなくしたい!」ではなく、「どうして○○になってしまうんだろう?」と考えるようになったからこそ起きたもの。

「なぜ?」「どうして?」をひとつひとつ、丁寧に考えていきましょう。瞬時に解決できることは、少ないかもしれません。けれど、欲張らないで丁寧に、1つずつ努力していけば、必ず結果は手に入ります。レッスンの生徒さんでも「あれも、これも」と欲張る方よりも「今週はかかと着地をマスターしよう」と、少しずつ重ねていく方のほうが、進歩は早いもの。クヨクヨ悩んで時間を無駄にせず、「どうしてだろう?」と考えること、改善策やそのための方法を見つけること。そこから、身体や心の大きな変化が生まれるのですから。