YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.73 睡眠の質を考えるとき、真っ先に見直すべきこと

みなさんはふだん眠るとき、どんな枕を使っていますか。その枕は、いつも申し分なく寝心地のいいものでしょうか?

ちょっと唐突ですが、最近睡眠についてのお悩みが話題にのぼる機会が多く、「よく眠れない」「いびきをかく」「歯ぎしりがすごい」など状況はそれぞれ違いつつも、詳しくお話を聞いてみると、その要因にはどうやらひとつの共通項があるようなのです。それが、冒頭で枕について尋ねた理由です。そのお答えは「いつも同じ枕で寝ています」や「上質といわれている枕を買いました」のように、疑いなくひとつの枕を使っているパターンと、「位置が少し高いような気がします」と違和感を感じつつ、対策を講じられないまま使い続けてしまっているという、ほぼ2つのパターンに集約されます。そしてひと通りお悩みを伺ったあと、当然の流れとして「先生はどんな枕を使っているんですか?」と聞かれるわけですが、それに対する私のお答えはこう。「特にこれ、という枕は使っていないんです」。そう言うと、たいていの場合「えっ、特定の枕を使ってないんですか?」とびっくりされるのですが、じつは“毎日同じ枕を使う”というのは固定概念に過ぎず、むしろ頭と首に余計な負荷をかけてしまっている可能性が大いにあるんです。

その日どんな作業をして、どんな姿勢で過ごす時間が長かったか。外回りの多い日だったか、デスクワークが多かったか。それによって体の強張り具合は毎日違い、ストレッチやマッサージ、お風呂に入るといったケアで筋肉をゆるめ、眠りに入りやすく、また深く眠れるようになることはみなさんよくご存じなのに、頭と首も同じということがすっぽりと抜け落ち、枕に対する意識が十分でない方がすごく多いのです。実際は体以上に、頭と首の方が日ごとの差が表れやすいと感じています。見る・喋る・食べるといった、主要な動作のほとんどは頭に集中していますし、また頭は無意識のうちに前のめりになりやすく、その重さを支えるため、強張りは首から肩、腕へと広範囲に及びます。それでも毎日メンテナンスがきちんとできて、同じ状態で眠りにつけるなら「これ!」というベストな枕を選ぶこともできるけれど、現実的にそれはなかなか難しいですよね。その日の首の強張り具合によって、心地いい枕の高さは違う。そのことを理解すると、ひとつの枕では頭と首の環境をカバーしきれないことに、自ずと行き着きます。

では、私自身はどうしているかというと、顔の両サイドにクッションを置き、その上に肌触りのいい、厚地で大判のブランケットをかけたものを枕にしています。まずクッションの間に頭が来るよう仰向けに体を横たえ、続いてブランケットをくしゅくしゅっとして、頭と首、上半身までが心地よく収まるよう高さを調整。頭と首を適切な位置にすることで全身がしっくりとコネクトし、睡眠を質の高いものにしてくれます。生地の重なり具合でいかようにも高さを変えられる、いろいろな枕、やり方を試した結果たどり着いた、今のところ最良の方法です。例えば、下を向いて作業をする時間が長かった日は、頭が前に行くことに慣れてしまっていますから、無理に下げようとせず、寝始めはブランケットの重なりを多くし、高い位置からスタート。そうするとおもしろいことに、寝ているうちに頭と首が本来の状態へと戻っていく過程で、そのときどきの心地いい高さを求め、体が勝手にブランケットの重なりを低く低くしていくんですね。そうして毎日細やかに向き合っていくうちに、自分のベストな状態とそうでないときの差により繊細に気づけるようになって、寝心地のよさと睡眠の質が安定するようになりました。質の高い睡眠は食事と双璧を成す美の土台ですから、安定すれば、美のアベレージがぐんと高くなることも期待できます。

頭と首の状態は、体と同じように毎日違います。むしろ重要な神経が集中しているぶん、体よりもっと細かく違いがわかります。目覚めがよくない、いびきをかく、歯ぎしりをする。睡眠についてのそんなお悩みに心当たりのある方は、何気なく、もしくはよかれと思って使っている枕について、見直してみるいい機会かもしれません。