YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.80 ハイヒールの掟① あなたの「上半身」はヒールの高さで決まる!

普段、ハイヒールを履いていると、「疲れないんですか?」と聞かれることがよくあります。実はペタンコ靴と、ハイヒールのパンプスを履くときの違いとは、体の重心の置き方だけなのです。

世間一般に上半身だと捉えられているのは、ほとんどの場合、ウエストのくびれから上の部分です。ウエストから下は、下半身だと考えられています。

一方、山田友美 WALKING STYLEでは、骨盤から上が上半身、股下から下は下半身と考えます。

ところで上半身と下半身の境目の、一般的に体の中心だと捉えられているウエスト部分に、体の重心を置くとどうなるでしょうか? 骨格で見ると、ウエストはあばらから骨盤まで、背骨で支えられていて、脂肪を蓄えてゆるませたり、筋肉を付けて引き締めたりもできる、自由自在な部位です。そうした体の構造上、不安定になりやすい部位に、体の重心を誤ってかけてしまうと、立ったり歩いたりするときに体はグラグラと揺れてしまい、結果的に疲れやすくなってしまうのです。

一方、うちの場合はハイヒールを履いていないフラットな状態でも、体の中で一番強い骨格である骨盤に、体の重心を置くようにしています。たとえば、おじぎのような上半身を前に倒す動作をするときは、骨盤より上をまっすぐに保ちながら、骨盤から前に倒します。こうした動作を日常的に行うことで、背すじを伸ばす背筋もしっかり付き、体の軸もまっすぐに保ちやすくなるのです。

ウエストを体の中心と捉える場合なら、ウエストから前に倒すので、背骨がグニャリと曲がって猫背になったり、肩から腕が内側に入りやすくなるなど、姿勢が崩れてしまいがちです。正しい姿勢を保って、さまざまな動作をするには、体の重心は骨盤に乗っているほうが遙かに体軸はしっかりしていて、体は安定しやすいと、おわかりいただけたのではないでしょうか。

ここまではハイヒールを履く以前の体の構造の話です。
次にフラットな靴からハイヒールに履き替えたときに、体の重心をいったいどこに置けばいいのかというと、頭から骨盤までの「上半身」の長さに、ヒールの高さをプラスしたところです。

10cmのハイヒールを履く場合なら、体の重心は股下から10cm下の内ももの後ろあたりに置くようにします。内ももの後ろに、股下10cmのものすごく長い胴をまっすぐに乗せるようなイメージです。こうすることで、「上半身」がグラグラせず、しっかり安定するのです。

ハイヒールは何も考えずに足を入れると、当然前のめりの前重心になりやすいですよね。一見、細くて華奢に見えますが、ヒールを信じて、ハイヒールのかかと部分にしっかりと自分の足のかかとを乗せて、体の後ろに重心をかけ、バランスをとる必要があるのです。

体の重心をウエストに置いた場合は、よっぽど体幹を鍛えている方でないと、自然と前のめりの前重心になって、足裏全体をペタペタと着く“スリッパ歩き”をするなどして、体はグラグラと揺れてしまいます。体の性質上、体に受けた衝撃は関節の硬いところで吸収しようとするので、繰り返すことによって、関節を痛めてしまう可能性もあるのです。歳を重ねるにつれ、「足が痛くて、ハイヒールが履けない」というお悩みを持つ方は、まずは体の重心の位置を変えてみてはいかがでしょうか。

外反母趾の方は、「ハイヒールを履くと、親指の爪が人差し指に刺さる。足裏が痛い」といったお悩みがありますね。これも足の爪が刺さったり、足裏が痛い時点で、前重心になっていて、ひざ下のみで立ったり歩いたりしている可能性が。体の重心を大きな筋肉である内ももの後ろ側に置いて、脚全体からヒップまでにしっかりと体重を乗せていれば、体がとても軽く感じられて、足先や足裏に負担がかからなくなるはずです。

骨盤から上の「上半身」にヒールの高さをプラスして、体の重心を置いた場合、ハイヒールは自然に体の一部になっています。歩くときも足ではなく、脚、そしてヒップ、腰までも、大きな範囲を味方にするべき。後ろ脚全体で蹴って、前に進むのは、ウォーキングの基本です。姿勢が崩れにくく、体の一部だけに負担もかけずに軽々と歩けるのです。今回はハイヒールを履くときの体の重心の重要性についてお伝えしました。次回は靴の“試運転”や、足のメンテナンスによって、ハイヒールをきれいに履く術をお伝えしますので、ご期待ください。