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Essay エッセイ

Vol.81 ハイヒールの掟② 靴の“試運転”と足のメンテナンスは必須

何気なく人を眺めていたときに、足元につい目を奪われた経験がある方は少なくないのではないでしょうか。足元の美しさは、個人の魅力をより引き立ててくれるものです。前回に引き続き、今回も素敵なハイヒールをきれいに履きこなすための“掟”をご紹介します。

私のハイヒール選びの特徴は、足のかかとが靴のかかと部分にどれだけきちんと乗るか、という点です。基本的にハイヒールを履いて歩くときは、体の後ろ側に重心を置き、ハイヒールのかかと部分に、足のかかとをしっかり乗せて、後ろ脚全体で蹴って前に進みます。靴のかかととヒール部分に、足のかかとをきちんと乗せることがハイヒールをきれいに履きこなすための第一条件。まずは、靴から見直していきましょう。

新しい靴を下ろしたときに「靴擦れができて痛い」「足にタコができてしまう」と悩んでいる方は、非常に多いです。実は、それは当たり前。そもそも、私たちの肌と靴の皮の硬さは、まったく違うもの。新しい靴を慣らしもせずに履くと、靴の皮より遙かにやわらかい肌は傷ついてしまいます。新しい洋服でも、少し硬い生地のものは、肌に跡が付くことがありますよね。同じように、新しい靴をいきなり履けば、肌はダメージを受けないわけがないのです。

そもそも、市販の靴が最初から自分の足の形にぴったり合う人はいません。新しい靴は下ろす前に、必ず自分の足の形にしっかりフィットするまで、家の中で“試運転”するようにしてください。

新しい靴は、かかと部分をグイッと押したり踏んだりして伸ばしたり、家の中で足にぴったり馴染むまで履いて、自分の足の形にフィットさせていきます。

靴を履いて歩いたときに、体の重心が靴のかかと部分にきちんと乗っているか、靴のかかと部分が足のかかとを覆う形になっているか、靴の中で5本の足指が縮こまらずにしっかり伸びているかをチェックします。それらがきちんとできるようになったときに初めて、靴を下ろしましょう。多少の個人差はありますが、ヒール初心者の場合、靴のかかと部分(足指の小指くらいの長さ)に、足のかかとがきちんと入り、乗せられる状態がベストです。

もし、靴のかかと部分を伸ばすことで、ゆるくなるのが心配なら、足が入るもので、少し小さめのサイズを選ぶといいでしょう。私自身は同じブランドの靴でも、表皮なら37サイズ、バックスキンややわらかいパテントなら36.5サイズという風に、靴の素材によってサイズを変えています。中でも硬かったり、厚みのある素材の靴は、1年ほど“試運転”(トレーニング)することも。靴をバスルームの湯船のふたの上に二晩ほど置いて、少し湿気を含ませてから、グイグイと伸ばしていけば、自分の足の形に素早くフィットしていくのです。逆にバックスキンの靴は、比較的足に馴染みやすいので、素足で履き込んでいくと、自分の足の形になる近道です。

さて、ありがちな足にタコができる理由は、その場所に体の重みを支えるだけの筋肉がないからです。足は今、足りない筋肉を何とか補おうと、タコをつくって、支えているのです。また、大きなサイズの靴を履いていれば、そのぶん隙間がたくさんできるわけですから、タコが筋肉の代わりをしてくれますよね。

前述したように、基本は靴のかかと部分に足のかかとを乗せて、後ろ脚全体で蹴って歩きます。そのとき、脚全体で腰から脚をちょこっと内側にひねるようにして前に出します。こうすれば、内ももが自然と鍛えられて、引き締まります。かかとから地面に着けたら、かかとから人差し指に向けて、足裏をローリングさせて歩きます。実は足指の中で一番短い小指のある外側に、体の重心が流れやすいので、人差し指を意識することで、体の重心は内側に保ちやすくなるのです。こうして、家の中を歩き回って、靴の“試運転”をするうちに、かかと部分で体の重心をしっかり支えるための筋肉も付くので、自然とタコができにくくなるというわけです。

ペタンコのスニーカーを履くなら、5本の足指を伸ばしたとき、指と指すべての隙間の分量を足してみると、人差し指1本分くらいのゆとりがあります。しかし、ハイヒールの場合は、靴底に傾斜があるため、5本の足指は自然と隙間なく詰まった状態になります。ですから、ペタンコの靴よりもハイヒールを履いたときの方が足指のマッサージなど、メンテナンスが大切になるのは当然ですよね。

プロの手を借りなくても、自分で足にクリームかオイル、乳液などを付け、肌のすべりをよくします。手の親指全体で、足指の骨の間の溝を足首から足先へと押し流したり、足指を1本ずつ引っぱって伸ばすだけでも血行がよくなります。また、足指の爪の付け根と爪の両脇をそれぞれつまんで指圧すると、爪の形に変化まで見えます。お手洗いに行ったときに、縮こまりがちな足指をグーパーするだけでも、ずいぶんと足の状態は変わるはずです。

もうひとつ、ハイヒールを履いたときに体が前のめりにならないよう、足の爪の長さにも気を配りましょう。私の場合、足の爪は深爪ギリギリ手前の長さがベスト。少しでも爪が伸びると、爪が長くなったぶん、靴のサイズを上げる必要があるので、そのまま履こうとすると、靴の中で足の環境バランスが崩れ、サイズが合わなくなります。当然立つと腰が引けて、体が前のめりになりやすくなり、体の重心がかかとに乗らなくなるのです。まず、自分の体の重心がかかとにしっかりと乗る、足の爪の長さを見つけることが大事。そして、こまめにやすりなどをかけ、ベストな爪の長さをキープするようにしてください。

ハイヒールを美しく履きこなしたい方は、これらの足のメンテナンスをこまめにしましょう。ハイヒールをきちんと履いた方がずっと、きれいな足を保てるようになるはずです。