YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.90 間違ったウォーキングをするくらいならやめたほうが賢明

一般に「ウォーキング」は、運動不足を解消する目的で、健康管理に用いられているように思います。中には「歩けば歩くほど健康にいい」と思い込んでいる人もいるほどです。「スニーカーを履いて、一生懸命歩いている」とおっしゃる方もよくいます。ウォーキングは、普段運動していない人でも、比較的手がつけやすい軽い運動として、広く取り入れられているのです。

ただし、ウォーキングの講師をしている私から見ると、正しく歩けている人は、ほぼいません。むしろ、ほとんどの人が自分の足や関節を傷める歩き方や、間違った靴の選び方をしているのです。

私自身も、アスファルトやじゅうたん、大理石、土といった足との接地面によって、どこの筋肉を大きく使って歩くべきか考えるほどです。実は接地面によって、歩き方や重心を少しずつ変えているのです。

靴選びにしても、ガッシリした骨格の人と華奢な骨格の人とでは、当然靴の向き、不向きがあります。たとえば、ガッシリした骨格の人なら、厚底のハイヒールを履いても多少は問題ないのですが、華奢な骨格の人が履くのはなかなか難しいのです。足の骨や、足裏が硬く分厚いソールに負けて、ボロボロになってしまうこともあります。何度もお伝えしている通り、ハイヒールに関しては、体内の一番硬くて丈夫な骨格である骨盤に重心を置いて、歩く必要があるのです。

実は一見、足に優しそうなスニーカーにも落とし穴があります。全身の骨格に対して、足が小さく、筋肉の少ない人が厚底の重いスニーカーを履くと、足首やひざなどの関節を傷めてしまいます。靴底と骨格、そして筋肉量のバランスは、とても大切です。ですから、足が小さい人の場合は特に、バレエシューズのような薄いソールのスニーカーで、足裏をローリングさせ、脚全体を使いながら歩く必要があるのです。

人によって、骨格や筋肉の付き方は当然違います。また、何を履いて、どのような接地面をどう歩くかを理解して使い分けている人はほぼいないでしょう。ですから、私は「毎日歩いているんです」という話を聞くと、知らずに足や関節を傷めていないかと、空恐ろしくなるのです。

歩き方や靴選びをひとつ間違えると、結果的に足や関節に過度な負担がかかって、傷めてしまいます。厳しい言い方になりますが、自分の体のことを考えるなら、ただガムシャラに歩くだけはやめたほうが賢明です。

とはいえ、何かしら運動をする必要があるために、歩きたい人もいるはずです。
そこで、自分が正しく歩けているかどうかがわかる、簡単な指標があります。歩いているときに、自分の影が左右に揺れていないか、確認してみてください。もし、影が左右に揺れているようなら、ただガムシャラに歩くのはやめましょう。

通常、歩くときは、体の内側の筋肉を使った「内側重心」がベストなのですが、影が左右に揺れている人は、体の外側の筋肉を使った「外側重心」になっています。体の外側の筋肉を使うと、体が揺れて歩行が不安定になるだけでなく、外側の筋肉がゴツゴツと張り出してくるため、ボディラインも美しくなりません。ガムシャラに歩いていて、「やせた」と言う人は、ほとんど体の外側の筋肉を使って歩いています。体の外側の筋肉は、使えば使うほど太くなり、内側の筋肉は使うほど引き締まります。ですから、体の内側の筋肉を使って、体の軸を安定させ、基礎代謝を上げたほうが得策なのです。

もしも影が揺れていない場合でも、関節まわりも含め、足のすべての筋肉を触ってみてください。このとき、関節まわりの筋肉が極端に固い、もしくは痛い場合は、体の重みを関節でキャッチしているのではないでしょうか? 関節まわりがこり固まっていると、結果的に歩くときに地面から受ける衝撃が関節にダイレクトに伝わり、傷めてしまうのです。

ひざをピンと伸ばしきっていたり、足首を固めている方は、筋肉を上手に利用しなければなりません。それとは反対に、関節まわりの筋肉と、他の部位の筋肉が同じくらいやわらかければ、筋肉が自由にのびのびと動けている証拠。柔軟性に長けているはずなので、故障しにくいのです。

一方、体を動かすときに呼吸が止まってしまう人や、体が緊張してギュッと力が入ってしまいがちな人は、関節まわりをガチガチに固めてしまいやすいので、ゆるやかに歩くことが大切です。

歩くことは普段、何気なくしている動作ゆえに、正しいフォームを改めて学ぼうとする人は多くはありません。人間、切羽詰まった状況にならないと、なかなか取り組まないものですよね。私自身も10年間で同じ病気に二度もかかって、困らなければ、今の仕事に就いていませんから(笑)。

ただガムシャラに歩いて、体を痛めつけるのは、もうやめにしましょう。せっかく歩くなら、足や関節を傷めない、きれいになれる歩き方を目指してみませんか。