YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.95 河岸を変えることで見えてくるもの

社員教育をしていると、さまざまな場面で気がつくことがあります。急に店内の様子がおかしかったり、スタッフのミスが多くなったときは、その会社内で何かあったということ。また、社内や店内の連携ミスは、スタッフ同士の人間関係が上手くいっていない証拠だと、私は思っています。

最近、プライベートで数年来の行きつけのお店を変える出来事がありました。そのお店は、いつも店内はもちろん、床までピカピカに磨かれているのですが、あるとき、足元が濡れていたのです。また、領収書の記入や、購入商品を間違えることもありました。そのときに、「なんだか様子がおかしい。何か変わったのかな」と感じました。さらに翌々週には、お店に持っていっていたシャツに、そのお店で使っている液体が付いていたのです。シャツに付いた液体の成分を聞いてから、クリーニング店に出そうと思い、担当者に相談すると、一旦お店でシャツを預かって、クリーニングに出すとのことでした。

それまで担当者を含め、お店のスタッフとは全員仲よくしていたのですが、お店のオーナーと関わる機会がほとんどありませんでした。そこで、いい機会なので、私の仕事に興味を持ってくれている担当者と、この件について、会社側がどのように対応するのか見てみるのもいいんじゃないかという話をしたのです。

そして、オーナーがこの件についてどう言ったのか聞いてみました。すると「保険でクレーム対応する」とだけ言われたそうです。お客様をよりよくしていこうとする職業柄の、誠心誠意がどこにも感じられなかったのです。担当者にも「会社の意見、どう思う?」と聞いたところ、「いや、この心ない対応は違うと思います」とはっきりと答えました。シミになってしまったものは、簡単に取れるものではないので、それはそれで思い出だと、笑い話にして流すこともできました。実は私、これまで相談やクレーム対応をきっかけに、仲よくなったお店のほうが多いのです。一見、ピンチに思えるクレーム対応は、どうフォローするかで、そのお客様をファンにしてしまうチャンスでもあるからです。

しかし、この度は肝心のオーナーの対応に、心底がっかりしてしまいました。担当者をはじめ、お店のスタッフは今でも大好きで喜んで応援したいので、独立した際は知らせてほしいとお願いしてお別れしたのです。

もしかしたら、自分でも居心地がよくて、慣れ親しんでいた部分を整理整頓したかったのかもしれません。何ごとも「少し違う」と感じたときは、一度遠ざかって、客観視してみたほうがいいと思います。もし、離れてみて、やっぱり自分に合っていると思えば、そのときはまた戻ればいいのです。

そういったことがきっかけで、新しいお店を探すことになりました。ただ、面白いのは、たとえ同じ業種であっても、お店が違えば、意見や見解がまったく違うこともあるのです。これだけいろんな意見や見解があるのなら、ひとつのお店だけに通うのは、もったいない気がするほどです。

1ヶ所だけでそのやり方を見るのではなく、可能であれば、いろんなところに行って、いろんなやり方があることを学ぶのは、とても大切だと改めて感じました。会社のトップや店長の考え方だけでなく、個人によっても、まったく違う考え方であることは多々あります。

私は企業研修という素晴らしい仕事をさせていただいているおかげで、人として大切なことを学ばせていただいています。そして、何よりも心ある対応や思いやりは、個々の場によって違うものだと思っています。

行きつけのお店を変えることは、けっこう勇気が要るものです。でも、勇気を持って、お店を変えたことで、今まで知らなかった情報や、ひとつのものごとに対してもいろんな考え方や、伝え方があることを知ることができました。こうした時間や体験によって、新たな視点を持つことができるし、多くの学びにもなるのです。

自分が癒されたいときや、何もしたくないほど疲れているときは、行きつけの慣れているお店に行くのが一番です。でも、自分が元気なときであれば、いつもとは違う場所に出かけて、新たな情報や視点を得るのもいいのではないでしょうか。現在の自分の考え方や、生き方の成長を実感できて、喜べるはずです。