YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.98 ほどよい緊張感がキレイをつくる

前回、キレイを手に入れたら、ほどよい緊張感を保つことが大切だとお伝えしました。人は美しさを一度手に入れると、つい満足してしまい、緊張感を保つことを忘れてしまいがちです。「先生、どうしたらいつもキレイでいられるんですか?」とよく聞かれるのですが、私の場合、「緊張感のおかげ」としか言いようがないほどです。

日常生活に適度な緊張感がないと、ボディラインや顔まわりなど全てがみるみるうちにゆるんで、締まりがなくなります。また、ずっとボーッとしているような生活だと、自律神経の心身を活発に働かせる交感神経と、リラックスさせる副交感神経も、バランスよく働くことができません。過度なストレスは問題ですが、日常生活にまったく刺激がないというのも、やる気や気力を含め、心身の働きが減退してしまうのです。

とはいえ、何ごともやりすぎたり頑張りすぎると、疲労がたまり、反動で長らく休むことにもなりかねません。自分の体のコンディションを上げていくのは、ほんの1mmずつでもいい。大きな刺激ではなく、ほんの少しの刺激で、ボディメイクをしていくことが大切です。手が届くくらいのささやかな頑張りは、キレイを保つために絶対に必要なのです。

“ほんの少しの刺激”の目安としては、1日に1,2回程度の緊張感はあったほうがいいでしょう。私の場合、自宅マンションのフロントを通るときは、絶対にいい笑顔で、キレイでいようと決めています。フロントの方に笑顔で挨拶ができないようなら、通っちゃいけないと思っているのです(笑)。どうしようもなく疲れてしまって、ボロボロな状態なら裏から出入りするしかありません。でも、そんなコソコソするような真似は、したくないと思うのです。

要は、1日のうち1,2回、ほんの少しでも人に見られているという意識を持つことが大切です。「いつもばっちりフルメイクしてください」とまでは言いません。どのくらいかというと、初恋の人にバッタリ会っても、気後れしないし、隠れなくてもいい程度です。

中には「今日は出かけないから」「すぐそこまで行くだけだから」と1日のうちに一度も緊張感を持たないという方もいるでしょう。私自身も自宅にいるのが大好きなので、気持ちはよくわかります。

もし、出かける予定がない日なら、朝のコーヒーをいれる際、いつものマグカップではなく、お気に入りの高価なティーカップとソーサーに換えてみてください。マグカップより、ティーカップとソーサーのほうが薄くて割れやすいので、自然と丁寧な所作になり、適度な緊張感が生まれるのです。所作が丁寧になれば、筋肉も寄り添い、見た目にも洗練された、しなりあるボディへと導かれます。使っている筋肉も緊張感のある、しなやかなものになっていくでしょう。

私は自宅に引きこもっているときこそ、いい食器を使うようにしています。いい食器で丁寧な所作でコーヒーを飲んでいると、みすぼらしい格好をしていたら、嫌になってくるのです(笑)。いい食器に引っぱられて、自分の身なりも急に「ちゃんとしようかな」という気分になります。コーヒーに限らず、ヨーグルトを美しいグラスに入れたり、フルーツをお気に入りのお皿に盛り付けるだけでもいいでしょう。そうして自分の日常力を高めることにより、しなやかな所作や緊張感が生まれ、ボディラインも変わるのです。

普段、「寝るだけだから、着るものは何でもいい」と思っている方なら、パジャマの価格を5000円上げるだけで、振る舞いまで違ってきます。新品の下着やストッキングを身に着けるだけでも、気分は上がり、姿勢や所作が変わるでしょう。日常生活の中に、ほんの少しの緊張感をどれだけつくれるかがキレイを育てるカギなのです。

できれば、3ヶ月か半年に一度でもいいので、人から見られる機会をつくることもおすすめです。習いごとをしている方なら、発表会などの人前に立つ機会をつくると、ほどよい緊張感が生まれ、日常の美意識もガラリと変わります。同窓会に出かけたり、子どもの行事に参加するなど、自分なりに人から見られるイベントをつくるようにしてみてください。もし、それが難しいようなら、ワンランクアップしたおしゃれをして、出かけることから始めてみましょう。自分自身で楽しみながら、普段の生活にささやかな緊張感を生み出し、キレイを磨いてみてはいかがでしょうか。