私のレッスンでは、生徒さんとテーマを決めて“自由研究”と称し、体を張った実験をすることがしばしば。以前の「睡眠」もそうでしたが、「これっていいんじゃない?」と思うことに皆で集中的に取り組むと、その成果がとてもわかりやすいんですね。それに、「皆も頑張っているから」というのが励みになり、チャレンジを楽しむことができるんです。
さて、そんな自由研究、最近のテーマは「ナイフとフォークを使う」です。
そんなの、誰でもやってるじゃない!と思うかもしれませんよね。でも、三度の食事だけではなく、何かをつまむときは必ず行う、というのがルール。ちょっとおやつをいただくときも、ランチョンを敷いてお皿に盛る。梅干し1つでも、気に入った豆皿にのせて美しいお箸でいただく。そのときは、箸先3センチ以上を汚さないように注意します。ペットボトルのお茶を飲むときだって、必ずきちんとしたグラスに注ぐようにするんです。
こういった“かたち”を整えると、気持ちが豊かになるんですね。いただくときの所作だって、自ずとエレガントになる。自宅でひとりの食事だからと手を抜くと、所作もだらしなくなるし食べ過ぎてしまう。冷蔵庫をあけたら楽しくなって、ダラダラと飲んだり食べたりしてしまうこと、ありますよね? でも、簡単な食事であってもテーブルをととのえて「さあ、いただきます」という気持ちで向かい合うと美味しさが倍増しますし、何より気持ちが満たされるのがわかるはず。
実は、私自身も忙しい毎日ですから、「食事のときのかたち」にまでこだわらないタイプでした。仕事の資料をランチョンマット代わりにして、内容をチェックしながら食べたりというのもしょっちゅう。けれど、ふとしたきっかけで「何かをいただくときは、きちんと向かい合うべき」と感じたのです。
そのきっかけは、とある生徒さんからいただいたお土産のチョコレート。美しい箱に入れられた、とてもかわいいスイーツだったのです。せっかくだからとテーブルクロスととっておきのランチョンマットを敷き、シリアルやチーズとともにあしらい、ワインと一緒にいただきました。その写真を生徒さんにメールしたら、「先生って、なんて豊かな食事してるの!」とお返事をいただいたのです。確かに、ごく簡単なあしらいでしたが、私自身もとても満ち足りた気持ちになれたのです。ぱっと箱から食べることもできますが、それではきちんと味わっていない。見た目も上品ではないですよね。お皿に盛ってナイフとフォークでいただく、という簡単なことだけで、同じ「食べる」という時間が何倍にも充実するんです。
慌ただしく食べても、きちんとかたちを整えていただいても、実際の時間は5〜10分しか変わらない。ほんの数分の手間で気持ちが満たされて所作も美しくなるのなら、そのほうがいいはずです。では、とさっそく生徒さんたちと実験したところ「何をどれだけ食べているのか、わかるようになった」「そのとき食べる量だけをお皿に盛るので、ダラダラ食いがなくなった」という声が続々。一人暮らしをしている生徒さんたちから「食事の時間が楽しくなった」と言われたのも嬉しかったですね。
食というのはお腹を満たすだけでなく、心も満たしてくれる大切な行為です。そして同時に、メンタルに深く関わる行為です。つい食べ過ぎてしまうというあなた、まずはナイフとフォークでいただくところから始めてみては?