YAMADA TOMOMI WALKING STYLE

Essay エッセイ

Vol.27 わかっているのにやめられない「猫背」の特効薬

新しい出会いの4月やGWが過ぎましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私はこの2ヵ月近く、企業の新人研修やマナー研修をたくさん担当させていただきました。フレッシュな方にお目にかかるとこちらもエネルギーをいただきますし、たくさんの学びがあります。今回は、そんな学びの中からお役に立ちそうな話をおすそわけします。

私に社員教育をご依頼くださる会社は、基本的にすごく美意識が高いところばかりです。お客様を相手にする仕事だったり、キレイに貢献する会社だったり、あるいは責任ある立場なので堂々と振る舞いたい、というケースだったり。もちろん皆さん「きちんとしたマナーで」という気持ちはあるのですが、いざというときに上手くできなかったり、「これでいいのかしら」と迷いながら行っていたり、気が緩むと姿勢が崩れてしまったりするんですよね。

そうなってしまう原因のひとつは、マナーの“理由”をご存知ないから。たとえばクライアントやお客様の前でお辞儀をするときに、手と手を重ね合わせますよね。左右のどちらの手が上になるか、意識していない方が意外と多いんです。「正解は左ですよ」と言ってしまえばそれで終了、せっかくの知識も身につきません。でも、「由来は“武士の情け”なんです。右手を下にすると“あなたには刀を抜きません”という意思表示に。そのためにも、右手を下にするんですよ」とご説明すると「なるほど!」と感じていただける。そういった理由やいわれもまじえつつお伝えするのが、研修やセミナーでの私の仕事です。

そしてもうひとつ、「身に付く」コツのお話をしましょう。講演会のときに私はよく、モニターを見たり舞台袖から様子をうかがって、客席をチェックします。そうすると、司会の方が「では、山田先生の登場です」といったとたんに、会場の皆さんの姿勢がシャキッとするのがわかるんです。皆さん、「もっときれいな姿勢でいなくちゃ」という気持ちはありつつ、つい緩んでしまう。そこに私が登場すると、ハッとされて姿勢を正すんですね。姿勢やマナーにおいて知識と同じくらいに大切なのが、そういった“意識”の問題なんです。

講演会や研修が終わると、ありがたいことにたくさん質問をいただきます。その中でダントツに多いのが、「猫背なんです」「姿勢が悪いのですが、どのくらいで正しくなりますか?」というもの。皆さん、薄々気づいているんです。だけど、どうしても意識が続かない。さて、そんなときにどうすべきか。

一般的に、何でも“身に付くのは3週間”と言いますよね。ダイエットでも勉強でも、なんとか3週間続けばそこから先は習慣化します。ですから、その3週間をいかに上手に乗り切るか、が大切。そのために私がおすすめしているのは、マーキングです。

これは「○○を見たら、姿勢を正す」というルールを作ること。たとえば信号機や非常口看板のような上にあるものが目に入ったら、すっと背筋を伸ばす。意識してみるとあちこちで見かけるので、いつもの暮らしの中で背筋を伸ばすシーンがぐんと増えます。あるいは、エレベータに乗ったら、壁を利用して基本姿勢をとる(やり方は、たとえばエッセイvol4.のレッスンのお話や、vol.17の姿勢の話を参照ください)。こういった何気ない「あ、姿勢がおかしい!」と気づくシーンを日常にたくさん埋め込んでおけば、姿勢を正すのがクセになってきます。

中でもいちばん効果的なのは、「鏡を使う」というテクニック。皆さん、ご自身のデスクなど長い時間を過ごすところがありますよね。そういった場所の、「正しい姿勢をとらないと、目が合わない」位置に鏡を置いてみるんです。究極的には自分の意識だけで正せるのが一番ですが、鏡などのアイテムは、ハッと気づくのに便利な道具なんですね。「あら、鏡と目が合わないから姿勢が崩れるわ!」と気づければしめたもの。その日から、姿勢がどんどん変わり始めますよ。

ちなみに、私もこういったテクニックをいまだに応用しています。たとえば講演会など大きなステージでは、下から見られることが多いもの。ですから自宅の引き出しに大きな鏡を入れています。引き出しを開けたときに、下から見た自分のむくみ具合やフェイスラインがわかるので、気持ちがぴしっと引き締まります。私もこういった小さな努力をたくさん重ねています。皆さんも、姿勢を正すためのマーキングを日常に取り入れて、ハッとする瞬間を増やしてみてください。そうすれば、猫背追放なんて簡単なことが、きっとお分かりいただけるはず。